関連コラム

疲労ストレス計 MF100

「疲労」に関するコラム

1.「疲労」の定義と疲労する日本

日本疲労学会からの発表によると、2010年に「疲労」は以下のように定義されています※1

“疲労とは過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である。疲労は「疲労」と「疲労感」とに区別して用いられることがあり、「疲労」は心身への過負荷により生じた活動能力の低下を言い、「疲労感」は疲労が存在することを自覚する感覚である。”

このように「疲労」と「疲労感」は異なり、人は責任感や没入により「疲労感」をマスクしてしまい、自覚なきままに慢性的な「疲労」状態に至る危険性を持っています。
1999年に旧厚生省疲労調査研究班が実施した疫学調査では、我が国で疲労感を自覚している人の割合は就労人口の約60%(4,720万人)で、その半数(2,960万人)が半年以上続く慢性的な疲労(6ヶ月以上の蓄積した疲労)に悩んでいます※2。慢性的な疲労がみられる人の約1割は日常生活や社会生活において支障を抱えており、その経済損失は1兆2000億円にも及ぶとされています※2
また、最近ではうつ病や不安障害などのメンタルヘルス障害により休職や退職に陥る労働者が増えていることより、労働安全衛生法の一部が改正され、平成27年12月よりストレスチェック制度が施行されました※3。この制度では、特にメンタルヘルス不調の未然防止の段階である一次予防を強化することが主な目的とされており、「定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個々の労働者のストレスを低減させる」とされています。
疲労という社会的問題の背景を受け、ムラタは、株式会社疲労科学研究所(以下 疲労科学研究所)と協業で、心拍変動解析による自律神経機能評価手法を用いた疲労ストレス測定システムを共同開発することになりました。

2.疲労ストレス測定システムの開発の経緯

 疲労科学研究所は、疲労を客観的に評価できるような方法を開発するとともに生理的疲労や病的な疲労の診断法、治療法の発見、普及を目的に設立された企業であり、大阪公立大学医学部や理化学研究所と連携して疲労研究で得られた知財に基づき、測定機器や分析・解析手法、ソフトウェアの研究開発を行っています※4
 ムラタは、2008年頃、電気・光学の2方式で脈拍を測定できる「心拍・脈拍センサ」の開発を進めており、その採用先を探していました。その一環として参加したヘルスケアに関する催しで、簡便・高精度に自律神経機能を測定できる装置の開発を検討していた疲労科学研究所と出会い協業することとなり、2013年9月に疲労科学研究所から疲労ストレス測定システムを発売しました。
 疲労ストレス測定システムを広く活用してもらうため、スマートフォンやタブレットと接続して簡便に使える機能を加え、疲労ストレス計MF100をムラタから発売することになりました※5

3.自律神経の測定と疲労ストレスの評価原理

 ヒトの疲労感や倦怠感はヒトが健康な状態を維持する為の大切なアラーム信号の1つですが、疲労を自覚する感覚には個人差があり、疲労状態を正しく評価するためには疲労度評価の「ものさし」と呼べるようなバイオマーカーに基づく判定が必要といわれています。
 ヒトの末梢神経には、体性神経系(運動神経、知覚神経)と自律神経に大別されます。体性神経系は生活環境ストレスに伴う機能的な変化はあまり見られませんが、自律神経系は生活環境ストレスが過度であったり、長時間続いていたりするとしばしば歪がみられることが知られています※6
 この自律神経機能の客観的評価については、世の中には様々な測定・判定手法があります。心電図や脈波などを用いて心拍変動解析を行うことで、交感神経や副交感神経の活動や自律神経バランスを評価する方法が一般的によく知られており、この心拍変動解析による自律神経機能評価については、疲労と多くの相関を持つことが研究により確認されています※7
 このように、自律神経活動を心拍変動解析により評価することにより、生活環境ストレスや疾病に伴う疲労や心身の変化を客観的に判定できる可能性がみつかり、疲労ストレス計MF100は、疲労やストレス状態を予見する1つの指標として、簡便に心拍変動解析できる機器となっております。

疲労やストレス状態が起因して発生する症状例
  • 6:倉恒弘彦 日本における疲労の現状と客観的疲労評価法 ストレス科学 33(4):271-282,2018.
  • 7:Van Ravenswaaij-Arts CM, Kollee LA, Hopman JC, et. al.: Heartrate variability. Ann Intern Med. 188(6),436-447,1993.

4. 疲労による不調のない社会をめざして

 疲労ストレス計MF100は、みなさんの生活の中でココロの状態を定量化できるツールです。みなさんが日常的に使われている体温計や血圧計が存在しないときには個人の感覚で体調を推し量るしかありませんでしたが、今では体温や血圧を見て定量的な判断を誰でもできるようになりました。ムラタはこの疲労ストレス計をココロの血圧計として普及させ、ご自身の不調をいち早く気づくことで、メンタル不調やその結果としての休職などの社会問題を少しでも減らせる世の中を目指していきたいと思います。

倉恒 弘彦先生からのコメント

 長時間の作業や過度の運動を行ったときには、誰でも「しんどい」、「だるい」などの体の疲れを自覚します。このような場合、細胞レベルでは、たんぱく質や遺伝子に傷がみられてきていますが、疲れを自覚することにより休息を取り、元の健康な状態に回復しています。したがって、疲労感は大切なアラーム信号の1つと考えられています。

 しかし、最近の疫学調査の結果によると、日本人の1/3以上が休息で回復しない慢性的な疲労を自覚しており、その中の約1割の人は学校や会社を時に休まざるを得ないような状況に陥っていることがわかってきました。また、過労や過重労働が原因で過労死やメンタルヘルス障害に陥ることが社会的問題として大きく取り上げられるようになり、疲れに対する予防や対策も求められています。

 疲労を自覚する感覚には個人差がみられ、疲労状態を正しく評価するためには疲労度評価の「ものさし」と呼べるようなバイオマーカーに基づく判定が必要です。最近の研究により、疲労度は自律神経機能評価、睡眠覚醒リズム解析、酸化ストレス評価、メタボローム解析、生物学的評価などにより、客観的に評価できることがわかってきました。

 特に、自律神経機能の異常は、日中の活動量の低下、睡眠異常、抑うつ、不安などの臨床病態と関連していることが明らかになっていますので、2分程度で評価することができる自律神経機能評価は疲労度を客観的に評価する簡便な手法の1つとして広く活用されています。

倉恒 弘彦 先生(医学博士)

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 招へい教授

大阪公立大学医学部代謝内分泌病態内科学 客員教授

その他おすすめのソリューションサービス・製品はこちら